研 究 発 表
 
○ 基調報告 三浦光俊(南部中学校)
開かれ,つながり,愛される学校と,生徒像ではなく目指す学校像を研究主題として取り組んできました。そして,主題を実現するために,次の取り組みを推進しました。@地域と共に,A授業を通して,B情報を開くです。一つ目の地域の教育力の活用が,新しい学校像創造のためのキーワードであると考えました。ボランティア・体験活動など,学校から地域へ出て行くこと。カルチャー講座,クラブ指導など地域の方に学校へ来ていただくこと。学校行事を地域の方に参加していただけるようにしたり,教育総合推進会議を設けて,学校教育に参画していただいたりするなど学校を開くこと。この3つの方向から地域と共に教育活動を展開しました。そして,地域の人たちから注目され,認められる中で子ども達は広い視野を持ち,やる気や元気や勇気を身につけ,そして大人への尊敬の気持ちを持ち,素直になってきました。同時に,地域の人たちの学校を見る目も優しく温かいものになってきました。教師も地域に目を向け,地域にとけ込むことの重要性を認識しました。このように地域に受け入れられる子どもを育てることを意識したとき,授業も変わってきました。保護者や地域の方が参加する参加型の授業,人間関係作りの授業,人権を考える授業など,人として生きていく上で大切な力,まさに人権を大切にする力と言えると思いますが,例えば他人の意見に耳を傾け,他人と関わる力,人の気持ちを思いやる力,自分を表現する力,これらの力を身につける授業が次々と実践されました。また,学校で行われていることを知ってもらうため,学校通信「南風」,学年通信などの発行,ホームページの開設など学校を開いていく努力につながりました。その結果,開かれ,つながり,愛される学校へ近づくことができたのではないかと考えています。
これから,3人の先生方に具体的な事例を交えながら研究の様子を語っていただきたいと思います。
○ 成果と課題  土屋孝壽(岩倉東小学校) 浅田 稔(南部中学校)
          岡田達彦(曽野小学校) 
 三浦 
    まず,はじめに研究を通して感じたことを,自己紹介を兼ねながら話していただ   きます。
  浅田
ここ数年子ども達は,地域の方達と触れあう機会が本当に増えてきました。毎月のようにどこかで誰かがボランティアに参加しています。時期によってはほとんど毎週といってよいぐらい出て行っています。その中で,地域の方々と触れあう中で,子ども達が変わってきたなと感じています。こんなにも広く中学生を受け入れていただける地域の方や行政,自治会の方に本当に感謝いたしております。
  土屋
授業参観や学校の行事はもちろんのこと,学習支援,クラブ支援で多くの地域の方,保護者の方に学校に来ていただけるようになり,感謝しています。また,学校が地域へ出て活動する子どもに対しても,自治会を始め地域の多くの方に温かく受け入れていただき感謝しています。
  岡田
   授業や学校の行事・学校外の行事を含めて,学校が少しずつ変わることができま   した。
  三浦
    最初に,浅田先生が言われました子どもが変わってきたと言うことですが,具体   的にどこが変わってきたのか例を述べていただきたいと思います。
  浅田
地域でお世話になることによって,子ども達も地域に目が向くようになり,社会性が身に付いてきました。有志合唱は創立して13年目を向かえます。最初は歌いたい子が集まって歌っていたのですが,次第に地域に出て行く機会が増えました。現在,毎日昼放課を使って練習しています。どうして集まってくるのか,それは,歌も歌いたいのですが,地域の人とも触れあいたい。そんな気持ちで集まってきている。先ほどの「幸せなら手をたたこう」をみなさんも一緒にやっていただきましたが,老人会などでやりますと,おじいさん,おばあさんが泣いて子ども達の手を離さないんですね。その涙が生徒の手にポロッと落ちる,その涙を見てまた生徒が泣くという,そんな触れあいを求める気持ちが,あの子達のパワーになっている。
  土屋
小学生も,地域の方と触れあう機会が多くなり,ありがたく思います。岩倉東小学校では,クリーンチェック岩倉に積極的に参加し,2t車いっぱいにゴミを集めました。自治会の方のご指導もあり,実のある活動になったと思います。
先ほどの,キッズソーランは,平成12年度の学芸会で演じたのを,地域の方がご覧になり,すばらしいということで是非夏祭りにも参加してみてはと言うことで,昨年・今年と夏祭りの盆踊りに参加させもらいました。ポスターを作ったりし,自作の法被を着て,より夏祭りを盛り上げようという気持ちも育ってきていると思います。
  岡田
曽野小学校のおさなさと太鼓ですが,これは岩倉太鼓友の会のご指導とご支援のおかげだと思います。練習は,総合的な学習の時間で取り組んだのですが,放課も熱心に行うようになり,授業後も子ども達自ら取り組んで練習を行う。こういうことが地域の方のご指導や連携によって生まれてきたのではないかと思います。その他,1年・2年の生活科においても地域に出かける,地域の方のご協力を得て,学校の授業を行っていくということが行われるようになりました。
三浦
地域の方に育てていただいて,子ども達が変わってきたということですね。南部中学校のNVCのボランティアの方も10年以上になるそうですが,最初の頃は,いろいろな苦労があったと思います。どういった苦労があったのかお話いただけますか。
  浅田
当初は,ボランティアの活動に当日参加するのみでした。自発的に行ってくれるんですが,やはり一人一人参加意欲への差が多少ありまして,当日,活動の仕方が地域の方に理解されず,苦情を受けたり,生徒によってずいぶん差がありますねと言われたりしました。こうした中,地域の方にも考えていただきまして,事前の企画の段階から中学生を参加させていただき,中学生のアイデアとか発想,パワーを借りて,一緒に地域を盛り上げていこう,そんな動きに変わってきたということを感じています。
  三浦
企画にまで,中学生が参加するという地域の暖かさというか,そこまで地域の方に認めていただくまでにはいろいろな苦労があった思います。
最初の頃,体験学習で保育園などに行くのですが,大事な子どもをとても中学生には任せられないと言われ,草取りしかやれなかったという,そういう時期もあったということを先輩の先生に聞いたこともあります。そんな中で,子ども達の誠実な取り組みにより,少しずつ信頼を得ていったのかなと思います。
次に,授業の取り組みについてお伺いしたと思います。
  岡田
曽野小学校では,先進校の研究を参考にし,指導案の形式から研究を始めました。もちろん形式だけでなく,内容も含めてですが,人権感覚を育むためにという大きな項目を一つ起こしたり,指導過程では,人権面を考慮した教師の働きかけという項目,最後の評価の項目ですが,子どもの学びをとらえる目ということで本校独自のアレンジをして,日常の授業の創造の中から,人権面を考慮した取り組みをする。この日常の取り組みが子ども達を育て,子ども達を変えていくことになるのではと取り組んでいます。人権面を考慮した授業では,おさなさと太鼓のように目で見て分かる,半年・1年で変化が見られるという取り組みではありません。人権教育は,学校生活のあらゆる面で5年・10年と長期間に渡って取り組むべきものです。子どもの大きな変化がすぐには見られませんが,先生方の意識は確実に変わってきました。そして,影響を受ける子ども達の毎日の生活の中で少しずつ自分を振り返る,友だち同士との関わりを振り返る,そんな場面が見られるようになりました。
  三浦
    日常の取り組みから,先生方の取り組みが大きく変わったと言うことです。
  土屋
今の子どもは,他を思いやるとか受け入れると言うことが,なかなか苦手だと思います。本校では,自己を見つめて,友だちを認める,そして,共に支え合おうという立場に立ちまして,エンカウンターの年間計画をそれぞれ学年に沿って,教科とも関連させながら作成しています。エンカウンターの手法を取り入れ,各教科・道徳・特活・総合的な学習の時間に,好ましい人間関係作りに励んできました。その結果,友だちの悪いところよりも,先に良いところを見つけ,讃え,そして言葉に出して褒めてあげよう。という気持ちが育ってきていると思います。本研究を通しまして,私たちが,少しでも研究のテーマに迫ろうとした成果ではないかと思います。
 浅田
地域の方と深く関わっていく中で,授業を支援して下さる方が出てきました。地域の方の教育力はすごいな。南部中では,道徳の時間,特活の時間などで,授業に地域の方が参加していただいています。教師がいくら教材研究をしても,地域の方による本物の言葉の一言が,生徒達の心に深く迫っていくんだなと感じます。授業はこれからも模索している途中です,いろいろなパターンの授業ができる可能性が広がってきたといえます。
  三浦
   本物の力という話が出ましたが,何か良い例がありましたら,お話し下さい。
  土屋
授業参観のとき,多くの保護者の方に来ていただきたいということで,親子で一緒に考える,一緒に作る,一緒に体を動かす等,全保護者の方に学習支援者として入っていただく参加型の授業参観に切り替えつつあります。
 また,今日は子どもがミシンの学習をすると言うことを聞いたので,お手伝いに来ましたと言って来ていただける方や,さつまいもの花が咲きましたので,子ども達に見せてやってください。といってみえる地域の方もありまして,日常的に学習支援がいただけるようになりました。夏には,校舎内をきれいにしようということで,保護者の方が4日間で250名あまり来ていただきまして,教室や廊下にペンキを塗っていただきました。地域の方に支えられた学校になりつつあると言うことで感謝しております。
  三浦
    3校の連携や,幼稚園・保育園・高校との連携はどのように進められいるか聞き   たいと思います。
  浅田
小学校との連携につきましては,お互いの授業を公開しあっています。中学校の教師が,小学校の授業を見ますと,たいへん新鮮で小学校1年生から6年生までの発達段階が理解でき,中学生の指導に生かされることがありました。高校との連携ですが,進路学習との一環で地元の公立高校へ3年生全員が体験授業を受けることになっています。また,その後,地元の大学の方へ体験授業ということも計画しています。
  三浦
3年生全員が岩倉総合高校へ行く。また,名古屋芸術大学へも全員が体験にいくという計画が立っています。こうした取り組みで,地域や家庭も変わってきたと思うのですが,このことについてお話をお願いします。
  岡田
運動会とか学芸会を,曽野小学校区の全家庭に案内状を配布するよう取り組んでいます。その際,地域の町内会の組織などにお願いすると快く引き受けてくただき,たいへん助かっております。
 また,野外活動でパエリヤを作るときに,わざわざ保護者が春日井の施設まで来ていただき,積極的に協力していただけるように変わってきています。
  土屋
11月3日に矢戸川清掃があります,地域の方と子ども達が一緒に取り組むことになっています。FBC花壇といいまして,開校以来,花作りを行っています。学校にきれいな花を作るということに留まらず,地域の花壇にも花を植えて,岩倉市をきれいにしようということを始めております。これも,地域の花壇を世話してみえる方達との連携によって始まった活動です。地域の方の協力なしでは学校は成り立たなくなっているのではないかと思います。
  浅田
私が,南部中に赴任したときに思ったのが,保護者の方が学校教育に温かい目で見ていただいているなと感じました。PTA活動も子ども達のことを考えて活動されています。驚いたのは,遠足に子ども達と一緒に参加しませんかと言ったところ,参加していただける保護者の方がみえたり,自然教室に参加しませんかと言ったところ,わざわざ遠くまで車を乗り合わせて参加していただいたり,卒業式では,PTAコーラスを行っていただいて,我が子の前で泣きじゃくって歌ってくださる保護者の方がみえて,ほんとにありがたいなと思っています。
  三浦
このように研究を進めているのですが,地域の方はどのように思われているのか,ここで地域の方を代表されまして,国際交流協会の理事長であります内藤さんに,将来子ども達にどんな大人になってもらいたいか一言お聞きしたいと思います。
  内藤
子ども達と接している中で,S子ども達には,人の中で生きていくんだよということを覚えていて欲しいということと,感動する心・気持ちをいつまでも忘れない大人になって欲しい。そのことを正しく表現できる大人になってほしいなと常日頃考えています。
  三浦
    最後に,一言ずつ研究への思いや今後の課題を言っていただきたいと思います。
  浅田
多くの場面で多くの人と関わっていく中で,子ども達が自分以外のことに,いろんな力を分けたり,ボランティア精神を育てて欲しいと思います。現在,ボランティア活動に参加している南部中の生徒の延べ人数はたいへん多いんですけど,まだまだ,参加できない子ども達もいます。何かのために,誰かのためにがんばることが,結局自分に返ってくる体験をしてほしい。ボランティアっていいな,おもしろいな,自分も成長していく,そんなつもりで地域の活動に参加していく生徒を一人でも多く育てたいなと思います。
土屋
 岩倉東小学校には,280名余りの児童が在籍していますが,このうち23名が外国籍の子どもです。どの子も楽しく,学習したり,遊んだり過ごしています。来年度は,54名の入学を現在予定していますが,その内の10名が外国籍のお子様のようです。きっとこの子達も来年度楽しく毎日登校してくれることを期待しています。今後は,これら外国籍の保護者の方も巻き込んで,外国の文化や遊び・風習等を紹介していただいたりして,国際理解教育を進め,さらに人権意識の高揚へつなげていきたいと思っています。
 学校教育は,われわれ学校だけでできるものではありません。今後とも,地域・家庭の方々にご協力いただいて,ますます研究を進めていきたいと思います。
  岡田
この研究を通じて,南部中学校区が現在このような姿になったんだいうことを見ていただける。これが,第1にうれしいことです。卒業生を見ていても,小学校・中学校9年間を通じて,地域を大切にするという気持ちが芽生えている場面を多く感じます。例えば,この3校を卒業して現在親になっている保護者が,自分の子ども達に学校を大事にするんだよということを伝えている。こうしたことを見ますと,この研究を通じて,地域を担っていく子ども達を大切に育てていくことの大切さを感じます。
 この研究は,今後も続きます。特に人権教育は永遠に続く課題でもあります。また,これを機会に,ますます地域連携も深めていきたいと思います。
  三浦
    まだまだ語り尽くせませんが,以上で研究発表を終わらせていただきます。